カメラマンとしての柔軟性 

Journal / Case Study

「やっぱり動画も撮れますか?」と言われた日

先日、急に決まった撮影案件がありました。

準備期間も短く、なかなか慌ただしい現場でした。

当初の打ち合わせでは、写真撮影と動画撮影の両方を予定していました。

しかし、その後クライアントから、

「やっぱり動画は必要ありません。写真だけでお願いします」

という連絡がありました。

私としては、少しもったいない気がしました。

というのも、今回の撮影は、普段なかなか集まることのない人たちが一堂に会する、貴重な機会だったからです。

写真はもちろん大切ですが、動画があれば、当日の雰囲気や参加者の声を記録できます。

後からSNSやWebサイト、プロモーションなど、さまざまな形で活用することもできます。

そこで、念のため確認しました。

「本当に動画はなくて大丈夫ですか?」

「せっかくの機会ですし、動画があれば今後の宣伝にもいろいろ使えると思いますよ」

しかし、答えは変わりませんでした。

「今回は写真だけで大丈夫です」

ということで、正式に動画撮影はなくなりました。

でも、なんとなく気になっていた

撮影当日。

写真だけの仕事として現場に向かうことになりました。

ただ、私は少し気になっていました。

「もしかしたら、現場で気が変わるかもしれないな」

長年撮影の仕事をしていると、こういう予感が働くことがあります。

特にイベントやカンファレンスなど、多くの人が集まる現場では、実際にその場の雰囲気を見て初めて、

「やっぱり動画も残しておきたい」

と思うことがあるからです。

そこで、今回は使わない予定だったマイクを、一応持っていくことにしました。

アシスタントも、念のため動画撮影に対応できる機材を持ってきてくれていました。

もちろん、使わずに終わるかもしれません。

それなら、それで構いません。

でも、必要になったときに何もできないよりはいい。

そんな気持ちでした。

「やっぱり、動画も撮れますか?」

そして、当日。

やはり、その言葉が出てきました。

「やっぱり、動画も撮れますか?」

思わず心の中で、

「やっぱり!」

と思いました(笑)。

現場の雰囲気を見て、せっかくの機会だから映像でも残しておきたいという話になったのです。

さらに、参加者へのインタビューも撮影したいというアイデアが出てきました。

もちろん、最初の予定にはありません。

でも、今回はマイクもある。

アシスタントも機材を持ってきてくれている。

そして、撮影できる体制もある程度整っている。

結果として、急な変更にも対応することができました。

もし、写真だけだからと動画機材をまったく持ってきていなかったら、対応は難しかったと思います。

柔軟性とは、ただ「はい」と言うことではない

今回の経験で、改めて感じたことがあります。

それは、柔軟性とは、その場で何でも引き受けることではないということです。

急に動画を撮ってほしいと言われても、必要な機材がなければ撮影できません。

特にインタビューでは、映像だけでなく音声が重要です。

カメラの内蔵マイクだけでは、周囲の騒音によって声が聞き取りにくくなることもあります。

後から編集で何とかしようと思っても、限界があります。

だからこそ、事前の準備が大切になります。

今回は動画撮影がキャンセルされていました。

それでも、現場で必要になる可能性を考えて準備していた。

柔軟に対応できたのは、偶然ではなく、準備があったからです。

クライアントも、現場で初めて気づくことがある

私は、クライアントが途中で考えを変えること自体は、決して悪いことだと思っていません。

むしろ、自然なことだと思っています。

打ち合わせの段階では、予算やスケジュール、優先順位など、さまざまな事情があります。

その中で、一度は動画撮影をやめるという判断をすることもあるでしょう。

でも、実際に現場に立つと、見えてくるものが変わります。

会場の雰囲気。

参加者の熱気。

登壇者の言葉。

普段はなかなか会えない人たちが、同じ場所に集まっている光景。

そんな瞬間を目の当たりにすると、

「やっぱり、これを残しておきたい」

と思うことがあります。

私は、それを単なる予定変更だとは思いません。

現場で新しい価値に気づいた瞬間なのだと思います。

だからこそ、可能な限り、その気持ちに応えたいと考えています。

経験とは、少し先を想像できること

カメラマンとして長く仕事をしていると、撮影技術だけでなく、さまざまな経験が積み重なっていきます。

例えば、

「このスケジュールだと、途中で時間が足りなくなるかもしれない」

「この場所は、午後になると光が変わるだろうな」

「このイベントなら、後から動画が欲しくなるかもしれない」

そんなふうに、少し先の状況を想像できるようになります。

もちろん、すべてを予測できるわけではありません。

予想が外れることもあります。

ただ、経験を重ねることで、起こりそうな問題や、必要になりそうなものを事前に考えることができます。

そして、その小さな準備が、現場で大きな違いを生むことがあります。

今回も、マイクを一つ持っていくという判断が、結果的に役立ちました。

追加の仕事には、もちろん追加の準備と費用が必要

ここで、一つ大切なことがあります。

柔軟に対応することと、何でも無料で引き受けることは違います。

写真撮影と動画撮影では、必要な機材もスタッフも、その後の編集作業も異なります。

急な追加依頼に対応できたとしても、追加の業務には適切な費用が発生します。

また、今回はたまたま対応できる機材がありましたが、どんな現場でも同じようにできるとは限りません。

大切なのは、できることとできないことを正しく判断し、クライアントと相談することです。

無理をして引き受けた結果、写真も動画も中途半端になってしまっては意味がありません。

柔軟性には、冷静な判断も必要なのです。

「言われたことを撮る」だけでは、もったいない

私たちの仕事は、クライアントから依頼された写真や映像を制作することです。

でも、それだけでは少しもったいないと思っています。

クライアントが何を伝えたいのか。

その写真や映像を、今後どのように使いたいのか。

今回の撮影には、どんな価値があるのか。

そうしたことを一緒に考えることで、当初の依頼以上の提案ができることがあります。

もちろん、最終的に何を制作するかを決めるのはクライアントです。

ただ、私たちは写真や映像の専門家として、

「こういう使い方もできますよ」

「せっかくなので、こんな映像も残しておくといいかもしれません」

と提案することができます。

そして、その提案が一度採用されなかったとしても、現場の可能性を考え続けることは大切だと思います。

最後に。柔軟性は、準備から生まれる

今回の撮影では、当初予定されていた動画撮影がキャンセルされ、当日になって再び必要になりました。

少し不思議な流れでしたが、結果的には対応することができました。

もちろん、毎回こんなふうにうまくいくわけではありません。

でも、今回改めて感じたのは、

「柔軟性とは、急な変更に慌てて対応することではなく、変更が起きる可能性を考えて準備しておくこと」

だということです。

カメラマンとして、良い写真を撮ることは当然大切です。

でも、現場で何が起きるかを想像すること。

クライアントの立場になって考えること。

予定が変わったときに、できるだけ良い方法を探すこと。

そんな力も、プロとしての大切な技術なのだと思います。

そして何より、

「やっぱり、撮っておけばよかった」

という後悔を、できるだけ残さないこと。

そのために、私たちができることは意外とたくさんあります。

今回、念のため持っていったマイク。

使わずに終わるかもしれなかった機材が、思いがけず活躍することになりました。

備えあれば憂いなし。

カメラマンの仕事にも、まさに当てはまる言葉だと思います。


LS STUDIO|Photography & Film Production

京都を拠点に、広告写真、建築・ホテル撮影、人物撮影、イベント撮影、映像制作などを手がけています。

撮影技術だけでなく、現場での判断力、柔軟な対応、そしてクライアントの目的を理解した提案を大切にしています。

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